新宿

ブックファースト新宿店を覗く。正味30分くらいで、地下1階だけ。
おおっ、東京マガジンセンターにはクラクラっと眩暈を覚えた。「WiLL」や「創」のバックナンバーも置いているくらいだから、重宝する人も多いだろう。サイン本に、なんとあのヴァラエティブック*1も並んでいた。
だが、待ち合わせには向かない。売り場があまりにも広すぎるから。そのせいか、店内のあちこちに地図がある……。
ジュンク堂新宿店の開店時に比べると、素晴らしすぎるくらい棚が出来上がっている。ただ、渋谷店にあった何かがここにはないような気がするんだよなぁ……と思いつつ、ブックファーストで買うのにふさわしい本を一万円近く買う。
ブックファーストはネットで在庫検索できないから、これからが楽しみ。数年後、何年か前までのジュンク池袋本店のように、他の新刊書店ではすでに並んでいない本を見かける機会が増えることだろう。ただ、文庫に関して言えば、足の速い文庫(日経ビジネス人文庫朝日文庫宝島社文庫、それに最近ではちくま文庫も)のスペースは決して広くない。書店の規模を考えたら、月に一冊売れるような本を置くだけでこのスペースはとられてしまうだろうし……。
スペースの配分を考えると、売り上げ重視のように思われる*2。前のブックファーストの場合、何階もフロアがあったから、雑誌は1階、その次に集客力があるのは2階というふうになっていた。

渋谷店は、いわばデパートのように、売り場を決めたように思われる。集客力が高い分野はアクセスしやすい階に置き、集客力は高くないけれど「この本を買いたい」という狙い買いの客が多くいる分野はアクセスしやすくないところに置くという。ジュンク池袋も、そういうフロア構成だと思う。
ジュンク池袋本店開業のとき、客足を呼ぶために、ジュンク堂単体だけでも客を呼び込めるように目指したという話をどこかで読んだ。で、ブックファースト新宿も、単体でも客を呼び込めるように目指したところまでは、おなじだろうけれど、とった戦略は違う。デパートのような店づくりをとらなかった*3

一方、ブックファースト新宿店は、郊外のショッピングモールだ。まる一日つぶそうと思えばつぶせる。その広さから、すべてがありそうなのに実はなく、その不在の方に目が行ってしまう人も決して少なくないんじゃないか。フロア面積から言えばノンフィクションは少ないように感じるし、ジュンクのような図書館的でもない。ジュンクは都市的な印象を和やしは覚えるが、このブックファーストは、どちらかといえば、郊外的なそれだろう。郊外といっても、世田谷や杉並など23区内にある郊外ではない。たとえていえば、そう、東京都心部に通勤する父を持つファミリーが住んでいる、分譲住宅がある、郊外だ。小田急線や東急田園都市線東横線西武新宿線池袋線京王井の頭線京王線、それに東武なんとか線という、私鉄沿線の感じを覚える。店でいえば、イケアやジョイフル本田……のように*4一フロアあたりの面積が広すぎるから、あれこれ散らしている。

これは、要するに、だ。ホームページにもあるように、「1つの書店の中にありながらまるで7つの専門書店を歩き回っているかのような」空間を目指したのだろう。オシャレな感じがする空間ではあるものの、ジュンクのように図書館ではないので、専門性に関しては、やや欠ける。というか、ブックファーストに期待しているのは、そういうところではなく、オシャレな感じだ*5

だから、デートコースには最適だ。デートだけではなく、たとえば豚珍館で腹いっぱいに食ってから、昼休みを一人だけで過ごすというサラリーマンにも、いいと思われる。要するに、時間つぶしにはもってこいの空間だ。
ビル柄、芸術関連の棚が充実しているから、そっち方面の人も重宝するだろう(これまでは大江戸線で六本木行って、ABCでという人も少なくなかったはず)。

新宿には、他にもブックファーストが2つも店舗があるにもかかわらず、きちんと色分けがなされている。スーパーのダイエー系列になぞらえれば、ルミネに入っている2店舗は「Big A」であり、こちらは「プランタン銀座」やハワイの「アラモアショッピングセンター」。アラモアショッピングセンター行ったことないけれど、そんな気がする。

ちょっと考えてみると、現在のこの書店がメインに見せようとしている本は、そういう郊外でも置いてある本が多い*6。そうじゃない本も見たいんだというときに、書棚を見てまわるほど時間のある人は、そんなにいない。

ただ、導線考えると、ちょっとアレなんだよなぁ。2009年の手帳フェアをやっているところの近くにはモレスキンのダイアリーや手帳がなかったりする(モレスキンがあったのは、森山大道の新宿フェア近くだった。しかも、これくらいで「フェア」と称しているようじゃ、まだまだ。)。
閉店時間も10時と早いため、新宿ゴールデン街でちょっと飲んで、酔い覚ましに歩いてから、本や雑誌を買うといった使い方はできない。
ABC六本木店のよさは、選書のよさもさることながら、閉店時間の遅さに負うところが多い。「終電逃した、じゃあ、どっちみち同じだし、ABCは朝まで始発まであいているから、ちょっくら覗いてからか帰るか」という使い方をする人も少なくないと思う。ただ、西新宿だと、飲食店の閉まる時間も早いし、そういうふうに行く人は少ないだろう。

このブックファースト新宿店は、東京駅前の八重洲ブックセンター本店や、同じく東京駅前の丸の内オアゾにある、丸善丸の内本店(店名あってる?)のようになるだろう*7

だから、この本屋には期待する。紀伊国屋書店3階以上やジュンク堂チェーンのようにインテリを、書泉チェーンのようにオタクやマニアを刺激する店には、ならないだろうから。かといって、東京堂書店のようにもならない(なれない)。
本を惜しみなく買うような人たちではなく、仕事上の必要に迫られて、あるいは趣味のひとつとして、本が好きな人、読書を趣味とする人に愛される書店になるのではないか。立地柄、住宅ローンや子供の教育費の関係で、限られた小遣いの中で、いい本を選びたい、買いたい、読みたいという人に愛される人たちを顧客に囲い込まなければならないだろうし。そう考えていくと、郊外的感性と都市的感性をほどよく合わせ持った人たちに利用される書店になる可能性が高いから。


そのあと、ベルクで軽く飲む。ベルク運が悪いのか、いつ行っても座れない。
帰りの電車で、買ったばかりの古谷実と浅野にいおを読んだ。

*1:ある意味、という言葉を用いるわけでもなく、私はこの本に影響されている。この本を高校時代、偶然手にすることがなかったら、いまとは違う道を選んでいたかもしれない。

*2:立地条件からしたら、当たり前なのだが

*3:これは新宿のデパート戦争から学んだのかしら? いや、ちょっと違う。ブックファースト伊勢丹を狙ったわけではないだろう。

*4:あんまり具体例を書くと、私の出自がバレてしまう。ある尊敬する編集者の方に指摘されてから、私はヤンキーなのかもしれないと感じはじめている。そう思う機会が多いんだよなぁ。矢沢永吉『成りあがり』は愛読書のひとつだし。これからカラオケ行ったら、ティーケーの歌ばかり歌ってやるとか思ってるし

*5:西武鉄道グループが凋落したいま、抜群にその手のセンスがあるのは、「Pen」や「Figaro」を発行する阪急コミュニケーションズという出版社も擁する阪急グループである。東急は沿線の不動産開発は熱心だが、それから先はアレだね。東急の経営方針については、宮脇俊三も『終着駅は始発駅』というエッセイで書いていたように思う

*6:ビジネス書ランキングはこれから変わるだろうけど、渋谷のそれには、ある種のセンスが感じられた。ビットバレー(死語ですね)の渋谷だという、「渋谷はいつも今のまち」(by「東京人」)だという感じがあった。でも、この店にはそれがない。新宿も、いつも今のまちなのに。ダサイかもしれないけれど、ある種の都市性がある――それゆえに、田舎モンの何かを捉まえると同時に都市的感受性を持つ人間をもを魅了する何かがある――まちなのに

*7:高速バスが東京駅から出ている先のところの新古本店には出物が多いんですよ、実は……なんてことをここで書いていいのでしょうか。ついでにいうと、インテリ度が高い町の古本屋は、概してクオリティーが高い。たとえば、神奈川県や千葉県の某市