瀬尾まいこ『図書館の神様』

図書館の神様

図書館の神様

船橋駅前のときわ書房や新星堂書店柏店など、瀬尾まいこの本を目立つところに置く書店が最近増えてきつつある(次回の本屋大賞瀬尾まいこが受賞するかもしれない)。
で、デビュー2作目読んでみた。

「バレーボールが私のすべてだった」けれど、ある事件がもとで引退直前に退部した早川清(キヨ)。以来バレーから遠ざかっていたものの「身体はバレーボールを求めていた」清は、彼氏の「浅見さん」(妻子持ち)に、学校の講師になれば顧問としてバレーに携わると提案され、高校の講師となった。
だが、コトはそううまくはいかず、「まったく接点のない文芸部」の顧問となってしまった清は、「浅見さん」や弟の拓実、文芸部長(といっても文芸部の部員は彼ひとりしかいないのだが)の「垣内君」との関係を通じて、<傷ついた心を回復していく>。

 いいなぁ、と思ったのは、卒業式の一週間前に行なわれた三年生を送る会と主張大会での、垣内君による文芸部の発表のクダリ。

「僕は学者じゃないし、文学者や小説について見解を述べたりしたくない。みんなにとってそんなことどうでもいいんだから。本気で川端康成について知りたい人は、図書室へ来てください。たくさん本はあります。文学なんてみんなが好き勝手やればいい。だけど、すごい面白いんだ。それは言っておきたい。だから、僕は一年間、ずっと夢中だった。毎日、図書室で僕はずっとどきどきしてた。ページを開くたび、文学についての言葉を生み出すたび、僕はいつも幸せだった。冬にサイダーを飲んだり、夏に詩を書いたり。毎日、文学は僕の五感を刺激しまくった」
 垣内君はみんなを見回しながら、堂々と語った。
「文学を通せば、何年も前に生きてた人と同じものを見れるんだ。見ず知らずの女の人に恋することだってできる。自分の中のものを切り出してくることだってできる。とにかくそこにいながらにして、たいていのことができてしまう。のび太はタイムマシーンに乗って時代を超えて、どこでもドアで世界を回る。マゼランは船で、ライト兄弟は飛行機で新しい世界に飛んでいく。僕は本を開いてそれをする」

 垣内君の言葉を、清はこう受けとめる。

 私はどうやって「それ」をしようか。私の周りには猫型ロボットはいない。自家用ジェットどころか、パスポートだって持っていない。文学は面白いけど、私にとっての「それ」ではない。今の私には愛すべき人もいない。「それ」をする方法。自分以外の世界に触れる方法。今、思いつくのは一つだけだ。

 では、清にとって<自分以外の世界に触れる方法>とは何か? それは読んでのお楽しみ。